【インタビュー】元デザイナーが上星川に作る、日常の余白と今後の展望とは|壹尺珈琲
グラフィックデザイナーから異業種である飲食の世界へ。上星川に店を構える「壹尺(イチシャク)珈琲」は、ただ美味しいコーヒーを提供するだけでなく、そこに集う地域の人々の日常をデザインする空間です。
なぜデザイナーからカフェ店主への転身を決意したのか。そしてこの街でどのような未来を描いているのか、店主の内田さまにお話を伺いました。
デザイナーからカフェ店主へ。変わらない「ユーザー思考」

さまざまな選択肢がある中で、なぜカフェを立ち上げようと思われたんですか?
―内田氏
単純にコーヒーが好きだったっていうのもありますし、元々在宅勤務でデザイナーとして数年やっている中で、コロナ禍で家でコーヒーをよく飲むようになったんです。その中でも焙煎が好きになって、会社員をしながらネット販売をずっと続けていました。

デザイナーとしての今後のキャリアを考えてみると、キャリアアップをしていくにつれてデザインを届けるお客さまとの距離が離れていってしまうなと感じるようになったんです。そんな時に、全然異業種ではあるものの、こういう街のカフェみたいな形はお客さまとの距離がすごく近くて。モノづくりをするという観点でみると、自分が求めている形なんじゃないかなと思いました。
そこと元々好きだったコーヒーを掛け合わせて、自分のデザイナー時代に培った「モノづくりの考え方」の核になるものを大事にしたお店を、地域密着でやっていけたら楽しいんじゃないかなと思って始めました。
デザインとカフェ経営で、共通しているところはありますか?
―内田氏
どこまで行っても「ユーザー思考」というか、お客さまを大事にしていかないとうまくいかないものだなと思っています。

日本のコーヒー市場はすごく嗜好性が大事にされる、こだわり派のコーヒー屋さんがたくさんあるんですが、本場の原産地などでは、嗜好性を大事にするというより「地域のコミュニティの一つ」みたいにすごくラフな感じでお客さまとの関わりの中でお店を作っていくところが多いんです。どちらかというと自分はそういうアプローチでお店をやりたかったですね。
お店に置かれているコーヒー豆にも、そういった視点は反映されていますか?
―内田氏
そうですね、美味しいかどうかという味の部分だけで選んでいます。

希少性が高いとかすごく流行っている豆だからといってアピールをするのではなくて。自分が実際に興味を持って焙煎や抽出をして、最終的に自分が「これ美味しいな」と思ったものをそのまま伝えられるような形で提供できるようにしています。
こだわりはあえて語らない。日常に「余白」を生む空間づくり

「壹尺珈琲らしさ」とは、どういうふうに捉えていますか?
―内田氏
「押し付けをしない」ことですね。聞かれたら答えるし、お店の内装や商品一つ一つにはすごいこだわりを込めてやっているんですけど、あえて自分から一個一個説明することもしないっていうのを大事にしています。
お客さま自身の価値観で「あ、これいいね」「このコーヒー美味しいね」って言った時に、お客さまに寄り添った形でなんでも答えるようにしたくて。そういう部分をブランドの核にしています。
空間づくりで意識されていることはありますか?
―内田氏
一つは、日常の中の人それぞれの「余白」を作れるようなお店にしていきたいなと思っています。

地域のお店だからこそ地元感はしっかり大事にしたい一方で、日常を忘れて少し特別な気持ちになれるような非日常感も残しておきたい。
ここに来ればちょっと心の余裕ができて、時間の中に余白が生まれて、また日常に戻っていける。そんな「いいとこ取り」というか、ちょうど真ん中を進んで行けたらいいなと。
実はお客さまには気づかれないかもしれない、こっそりこだわっているポイントはありますか?
―内田氏
どこがいちばんこだわったかと聞かれたら「空間づくり」と答えるぐらい、いろいろなところに散りばめています。

例えばコーヒーの壁も、温かみを残すために漆喰を塗っているだけでなく、焙煎の時に出る「チャフ」と呼ばれる外皮の捨てちゃう部分を練り込んでいます。スツールなどの家具も、最終的に納得がいくように全部自分でサンダーをかけて研磨して風合いを出しました。
食器やマグカップにもかなりこだわりがあるとお聞きしました。
―内田氏
そうですね、今回TOUKIでつくったマグカップではアメリカンダイナーに出てくるような高温で濃いコーヒーをすっきり入れるようにしています。
熱々のコーヒーなので、飲む瞬間に少しずつすするように口に入ってくるよう、マグカップの角度がちょっと直角になっているものを選びました。

「スタッキングマグ」という形なんですが、艶感があって少しもったりした質感が可愛くて。ブランドカラーである青色も、納得いくまで調整してもらいました。裏面にはこのマグカップ専用にリデザインした、ポップな「壹尺」のロゴを印字しています。
ありがたいことにこのマグカップで淹れるコーヒーはめちゃくちゃ売れて、常連さんによっては3杯くらいおかわりされる方もいます。カップの敷居が少し低く見えて、おかわりへのハードルが下がったのかもしれません。
「このマグカップ買いたい」と言ってくださる方も多いので、今後はキャニスターやマイボトルなどと一緒に物販も展開していきたいですね。

改めて、今回TOUKIで制作いただいた決め手はどのあたりでしたか?
―内田氏
1つは、1個から注文できる中では結構安かったことですね。あとは、注文ページのUIがすごく選択しやすかったです。どこに印字するかとか、色を選択するといった一つ一つの方法がすごく使いやすくて。元々ネット系のデザインをやっていたので、「ちゃんと作ってるな」と自分的にはすごく好印象でした。
そういったところが他社さんと比較してもよかったのと、他の方の導入事例を見て、いいなと思ったのもあります。スタッキングマグの形だとコストパフォーマンスも一番良いし、印刷できるエリアも多いですよね。

あとは担当の方とのやり取りですごく融通をきかせていただいて。他社さんだとサンプルの購入や色の校正など、「サンプルをもう1回やるならプラスいくらです」「何回までです」みたいに厳しいところもあるんです。
でも、TOUKIの担当の方がすごく融通をきかせてしかもスピーディに対応してくれたので、そこが最終的な決め手でした。
色の出具合などにもこだわっていらっしゃるのかなと思います。その点はどうでしたか?
―内田氏
実際のサンプルはスマホの画面で見ていた時の印象とはちょっと違う部分もありました。1回目は赤みがかった青で発注してしまったんですが、そこからより青っぽく、お店のタイルなどで使っているブランドカラーに近くなるように調整していただきました。

青の種類も意外といくつかから選べますよね。選べる幅が結構あった気がするので、選びやすかったです。
カフェの枠を超えて。上星川にひとつの「村」を作る未来
地域密着という観点で、今後やってみたい企画や関わり方のイメージはありますか?
―内田氏
今後も続けていきたいのは、子供たちとの交流です。去年、地元の小学校の個別級の子供たちと総合学習の時間で「コーヒー豆のアップサイクル」の授業を1年通してやりました。
お店で出たコーヒーカスを提供して子供たちがプロダクトを作って販売したり、お店の抽出マシンを学校に持っていって一緒にコーヒーを配ったり、親御さんにプレゼントするドリップパックを作る焙煎教室をやったり。
そうやって子供たちと交流していると、ローカルな町なのでおじいちゃんやおばあちゃんもすごく喜んでくれるんです。そこから町内会や民生委員の方とのつながりができて地域での活動の広がりが出てくるのを体感したので、これからも続けていきたいですね。
隣の空間を使って、新しい事業の展開も考えられているとか。
―内田氏
はい。地域密着のお店なので、同じコーヒースタンドという業態で広げても頭打ちになってしまいます。だったら全然違う業態でいろんなお店を展開していけば、地域の活性化にもつながるかなと。

隣の店舗では、日用品を扱う小さなセレクトショップと、マシンピラティスのお店というコーヒーとは全然関係のない業態で別のブランドを作る予定です。
同じように、今後このビルの上の階が空いたら1棟で全然違うバラバラの業態でちょっとずついろんな事業を展開して、最終的には上星川の人たちが集まるひとつの「村」みたいな場所にできたら楽しいだろうなと考えています。
最後に、お店に足を運んでくださる地域の方々へメッセージをお願いします。
―内田氏
壹尺珈琲は、どんな人が来てくれても、その人の日常生活の中の「余白」を大切にするような形でコーヒーを提供します。コーヒーのことを聞きたい人が来てくれてもいいし、ただ淡々と読書をしに来る人がいてもいい。誰が来てもいいお店です。
上星川という街でずっと長く続けられる、フラッと来て一息深呼吸できるようなお店でありたいと思っているので、「いつでもどうぞ」「待ってます」という感じで、皆さんをお迎えできればと思います。
