【インタビュー】店舗を持たない決断から12年。自転車屋台から法人化までの軌跡|SPAiCE COFFEE
大学卒業と同時に、経験も資金もない中で始めた「自転車のコーヒー屋台」。それから12年という月日を経て、現在では店舗を構え、オリジナルプロダクトを展開し、さらには法人化を果たすまでに大きく成長したSPAiCE COFFEE。
なぜ、あえて都市部から離れた勝浦でコーヒーを淹れ始めたのか。そして、マグカップに込められた「思想の種」とは。代表・紺野さまの軌跡と、その根底に流れる哲学に迫ります。
箱を持たない決断と「当たり前」への反骨心

コーヒーのお店を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
―紺野氏
始まったのは12年前です。スタートは移動式のコーヒー屋台で、大学を卒業したタイミングと同時に自転車で始めました。実は、最初からコーヒーに魅了されていたわけではなくて、何か特別なターニングポイントがあったわけでもないんです。
当時思っていたのは「場作り」でした。人が集まるような場所を作りたいという思いがあり、22歳の当時はカフェしか思いつかなくて、じゃあカフェだと。

大学4年の頃にひたすらバイトして100万円くらい貯めて、それだけあれば店を作れるだろうと思っていたんですけど、到底始められないし、経験もない。体育大だったから飲食に携わっていたわけでもありませんでした。
内定をいただいていた会社も辞退させてもらって気合いだけはあったんですけど、100万円あっても何もできないし、キッチンカーをやる覚悟もない。どうしようかなと行き着いたのが「自転車」だったんです。

場を作るなら、箱(店舗)がなくてもいけるんじゃないかと思って。自転車でカフェの要素を取り入れるならコーヒーかなというところで辿り着いたのが、始まりの自転車屋台です。
最初の自転車屋台の時は、どのようなコンセプトを持っていたのですか?
―紺野氏
当時思っていたのは、「当たり前と言われていることに対する問い」を投げられたらいいなという、反骨心ですよね。
通常、コーヒーを始めるとなったら、どこかで修行することが当たり前じゃないですか。「どこで勉強したんですか」と聞かれるのが普通だし。だからこそ、一番自分からかけ離れているものを選びたかったんです。

何もない場所で始めた理由も同じです。人口が減っていっている町よりも、人が増える場所で商売を始めてうまくいく方が「当たり前」じゃないですか。
ここ勝浦には何の縁もゆかりもなかったですが、人がいなくなっている場所でどれだけやれるのか。そういうことを屋台の時は思って始めました。
「二面性」のある空間と、思想の種を蒔くプロダクト

現在の店舗作りにおいて、大切にしている「こだわり」や「思想」について教えてください。
―紺野氏
思想は大切にしたいなと思っています。伝えたい、感じてもらいたい思想の根幹は店舗ごとにあります。
今のコーヒースタンドだと「二面性」ということをコンセプトにお店作りをしています。通り過ぎる人たちから見た時の空気感と、中に入って奥に行った時に見る風景とで、見え方が違うような作りにしているんです。
外から見た時は少しクールな印象を持たれるように設計していて、奥に入った時に少し距離感が近いような、ホッとするような印象を持ってもらえたらなと。

お店を作った時から「A Little Bit of Spice Everyday(日常にちょっとしたスパイスを)」というコンセプトがあって、日常にちょっとした非日常のきっかけを一杯のコーヒーから届けられたらいいなという思いは、変わらず持ち続けています。
オリジナルのスタッキングマグカップなど、ショップ(物販)に込められている思いはどういったものですか?
―紺野氏
物販のショップは種を蒔く場所というのがテーマです。種というのはまさに思想の種で、僕らの思想を体現しているのがこの商品というイメージです。

ショップで色んなお土産を買ってくれると思うんですが、その行く先は、買った本人へのプレゼントだったり、同僚や会社の人へのプレゼントだったりするわけじゃないですか。僕らが全然接点のない人たちに対して商品が届く可能性があるってことは、僕らのこの思想の種を蒔けるということなんです。
結果的にそれがどういう芽を出して花を咲かすのかは、届いた先に委ねられています。途中で枯れちゃうかもしれない。でも、皆さんの畑の中で枯れたとしても肥料にはなるかもしれないし、もし枯れずに一つの芽を咲かせるのであればそれはそれで嬉しい。どちらにしても嬉しいなっていうのが、種を蒔く場所ですね。
ちなみに、マグカップのカラーバリエーション(緑・赤・白)にはどんなこだわりが?
―紺野氏
「HOUSE」と「COFFEE」の文字が入ったものは、意味で買ってもらえるだろうなと。緑と赤でどっちが手に取りやすいかといったら、緑の方が家になじみやすいですよね。赤って色が強いから好きな人はめちゃくちゃ好きだけど、一般受けはしにくいかなと。ワードとカラーのバランスを取ったのがこの2つです。

「SPAiCE」の白に関してはめちゃくちゃ迷いました。これだけ唯一店の名前(造語)なので、分けた時にデザイン的に少し面白みがあったほうが手に取ってもらえるかなというのが、真っ白にした理由ですね。
実際に完成した商品の感想や、お客さまの反応はいかがですか?
―紺野氏
仕上がりがすごく綺麗だなと思いました。一つ一つにちゃんと感動があるというか、箱の蓋を開けた時にスッと感動があるなっていうのは、個人的に感じていることです。

お客さんの反応としては、常連の方で1個買ってくださった方が「2個目も買いたい」と言ってくれたり、皆さんが自然と手に取ってくれるのが非常に面白いところですね。作りがシンプルだからこそ、飽きないんだと思います。
法人化による心境の変化と「土地の感覚を抽出する」未来

この12年間で、ご自身の心境や思いに変化はありましたか?
―紺野氏
すごく変わりましたね。今年の2月に法人化をしたのですが、それまでは個人事業主の集まりみたいにやっていました。
新しい組織の形を模索したくて個人事業主でやってたんですけど、社会のシステム(法人化)はどうも僕らが思ってる以上に有効だなと、やっていく中で思って。3年くらいやって節目を感じたので、一回社会のルールに則ってちゃんとやってみようとなったのがこの2月の話です。

自分は今まで人にサービスを提供する側、いちバリスタみたいな立ち位置だったのが、今は代表みたいになっているので、心境でいうとかなり大きな変化はありました。
最後に、今後の展望や挑戦してみたいビジョンを教えてください。
―紺野氏
企業としての理念として、「We brew a sense of place」というものを掲げています。「brew」は抽出するという意味と、「sense of place」は土地の感覚という意味です。

日本の文化って、地方に眠っているんじゃないかなと思っていて。地方というのは単に都心から離れた場所という意味だけじゃなくて、東京は東京でもちゃんと文化として残ってる場所もあると思うんです。そういうものを僕らができる「抽出」をした上で、残していけたらいいのかなっていうのが大きなビジョンの話です。
それが今後、コーヒー屋であるかどうかっていうのはまだ決まっていませんし、もしかしたら業態が増えるかもしれない。ただ、コーヒーと向き合っていくという軸みたいなところはぶらしてはいけないと思っています。
そこをやめてしまった瞬間に何も抽出ができなくなってしまうだろうなという感覚があるので、そこであえて「brew」という言葉を入れているんです。
